Web3開発者ツールボックス

Ceramic Networkとは?Web3開発における分散型データストレージとDID連携、活用事例、技術選定のポイント

Tags: Ceramic Network, 分散型ストレージ, DID, Web3開発, データ管理, ComposeDB

Web3エコシステムでは、ブロックチェーン上にトランザクションや所有権の記録を保存することが一般的ですが、大量の構造化データや頻繁に更新されるデータをブロックチェーン自体に保存することは、コスト、容量、プライバシーの観点から現実的ではありません。IPFSのような分散型ファイルストレージは静的なファイルやコンテンツの保存に適していますが、動的で構造化されたデータを管理するには追加の仕組みが必要です。

このような背景から、分散型の方法で構造化データを管理し、かつ分散型識別子(DID)と連携してデータのオーナーシップやアクセス制御を実現できるソリューションが求められています。Ceramic Networkは、この課題に応える分散型データストリームネットワークです。

本記事では、Ceramic Networkが提供する機能、Web3開発における活用事例、そしてプロジェクトで分散型データ管理ソリューションを選定する際の重要なポイントについて解説します。

Ceramic Networkの概要と仕組み

Ceramic Networkは、構造化されたデータを分散的に管理するためのオープンソースなプロトコルです。ブロックチェーンとは異なり、Ceramicは「ストリーム」と呼ばれる変更可能なデータログのネットワークを構築します。各ストリームは特定のデータセットを表し、DIDによってそのオーナーが紐づけられます。

Ceramicの核となる技術は、IPFS上に構築されたContent Addressing(コンテンツアドレッシング)と、Conflict-free Replicated Data Types(CRDTs:競合のない複製データ型)を組み合わせたものです。データはコンテンツアドレッシングによって一意に識別・参照され、CRDTsによって複数のノード間でのデータ更新の競合解決が効率的に行われます。

主な特徴は以下の通りです。

Web3開発におけるCeramic Networkの活用事例

Ceramic Networkは、ユーザーセントリックなデータ管理が求められる様々なWeb3アプリケーションで活用されています。

これらの事例では、Ceramic Networkがユーザーデータやアプリケーションデータを分散的に、かつDIDと連携させて管理することで、中央集権システムでは実現が難しいデータの主権性、相互運用性、耐検閲性を提供していることがわかります。

Ceramic Networkを使った簡単なデータ操作例

Ceramic Networkを利用する典型的な流れは、まずDIDをセットアップし、次にそのDIDをオーナーとしてCeramicネットワーク上でデータストリームを作成・更新・読み込みするというものです。ここでは、JavaScript/TypeScript SDKである@ceramicnetwork/http-clientdid-session(認証用)を使った簡単な例を示します。

まず、必要なライブラリをインストールします。

npm install @ceramicnetwork/http-client did-session

次に、簡単なデータストリームの作成と読み込みのコード例です。このコードを実行するには、実行中のCeramicノード(ローカルまたはパブリックゲートウェイ)が必要です。また、DIDの認証(例: セッション認証)が必要です。

import { CeramicClient } from '@ceramicnetwork/http-client'
import { DIDSession } from 'did-session'
import { createDIDKey, DIDKey } from 'did-session/src/did' // did-session のバージョンによってはパスが異なる可能性があります

// 実行中のCeramicノードのアドレスを指定
const ceramic = new CeramicClient("https://ceramic.network"); // または "http://localhost:7007"

async function authenticateDID() {
  // 例: セッション認証を使ってDIDをセットアップ
  // DIDSession.authorizeなど、適切な認証フローを実装してください
  // ここでは簡単なDIDKeyの生成例を示します。実際のアプリケーションではユーザーのウォレットなどを使用します。
  const key = await createDIDKey();
  const session = await DIDSession.authorize({
    did: key.did,
    resource: ceramic.did?.parent?.id || "*", // CeramicノードのDIDなどを指定
    expirationTime: new Date(Date.now() + 1000 * 60 * 60).toISOString() // 1時間有効なセッション
  });
  ceramic.did = session.did;
  console.log("Authenticated DID:", ceramic.did.id);
}

async function manageDataStream() {
  if (!ceramic.did || !ceramic.did.authenticated) {
      console.error("DID not authenticated. Please call authenticateDID() first.");
      return;
  }

  try {
    // 1. データストリームの作成
    console.log("Creating a new data stream...");
    const initialContent = { name: "Alice", age: 30, status: "active" };
    const stream = await ceramic.createStream('base', { // 'base'は初期のモデル(現在はComposeDBなどが推奨されます)
      // initialContent: initialContent, // baseストリームの場合はinitialContentではなくdataフィールドを使用
      data: initialContent
    });

    const streamId = stream.id.toString();
    console.log("Stream created with ID:", streamId);
    console.log("Initial content:", stream.content);

    // 2. データストリームの更新
    console.log("Updating the data stream...");
    const updatedContent = { ...initialContent, status: "inactive" };
    await stream.update(updatedContent);

    console.log("Stream updated.");

    // 3. データストリームの読み込み
    console.log("Fetching the updated stream content...");
    const fetchedStream = await ceramic.loadStream(streamId);
    console.log("Fetched content:", fetchedStream.content);

  } catch (error) {
    console.error("An error occurred:", error);
  }
}

// 実行
authenticateDID().then(() => manageDataStream());

上記のコードは、Ceramicの基本的な操作の概念を示すためのものです。実際のアプリケーション開発では、CeramicのComposable Data Networkフレームワークである「ComposeDB」を使用することが推奨されます。ComposeDBはGraphQLを通じてデータスキーマ定義、クエリ、ミューテーションをより容易に行えるようにする上位レイヤーのフレームワークです。ComposeDBを利用することで、より複雑なデータ構造を持つアプリケーションを効率的に開発できます。

技術選定のポイント

Ceramic NetworkをWeb3プロジェクトに導入するか検討する際、以下の点を考慮することが重要です。

プロジェクトの要件、開発チームのスキルセット、およびWeb3インフラ全体のアーキテクチャを総合的に考慮し、Ceramic Networkが最適なソリューションであるかを判断することが重要です。特に、分散型アイデンティティと連携したユーザーデータ管理の必要性が高いプロジェクトにおいては、Ceramic Networkは強力な選択肢となり得ます。

まとめ

Ceramic Networkは、Web3開発において、分散型でありながら変更可能で構造化されたデータを管理するための重要なインフラレイヤーを提供します。IPFSなどの分散型ファイルストレージを補完し、特に分散型識別子(DID)と連携することで、ユーザーが自身のデータをコントロールできるアプリケーションの構築を可能にします。

分散型ソーシャルアプリケーション、ゲーム、アイデンティティ管理など、様々な分野での活用が期待されます。技術選定においては、プロジェクトが求めるデータの性質、DID連携の必要性、開発チームの技術スタックなどを考慮し、他の分散型ソリューションとの比較検討を行うことが推奨されます。

Ceramic Networkとそのエコシステムは今後も進化していくと考えられます。最新のドキュメントやコミュニティの活動を参考に、プロジェクトに最適なデータ管理戦略を構築してください。