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IPFSとは?Web3開発における分散型ストレージの仕組みと活用事例、技術選定のポイント

Tags: IPFS, 分散ストレージ, Web3開発, 技術選定, NFT

ブロックチェーン技術を活用したWeb3アプリケーション開発では、従来のWeb開発とは異なる技術要素が求められます。その中でも、アプリケーションが扱うデータの保存場所として「分散型ストレージ」は重要な役割を果たします。本記事では、分散型ストレージの代表格であるIPFS(InterPlanetary File System)に焦点を当て、その基本的な仕組み、Web3開発における具体的な活用事例、そして技術リーダーやプロジェクトマネージャーがIPFSの導入を検討する上で知っておくべき技術選定のポイントについて解説します。

分散型ストレージがWeb3で重要視される理由

従来のWeb(Web2)では、ウェブサイトのコンテンツやユーザーデータはAmazon S3やGoogle Cloud Storageといった中央集権型のクラウドストレージに保存されるのが一般的です。これはシンプルで管理しやすい一方で、特定の事業者に依存することによる単一障害点のリスクや、検閲の可能性といった課題を抱えています。

一方、Web3の理念は、権限を分散させ、特定の事業者に依存しないシステムを構築することにあります。ブロックチェーンはトランザクションの記録と状態管理には優れていますが、画像や動画といった大容量のデータを直接保存するにはコストやパフォーマンスの面で適していません。そこで、ブロックチェーンと連携しつつ、データの可用性や検閲耐性を高めるための基盤として分散型ストレージが注目されています。IPFSは、このようなWeb3の要求に応える分散型ストレージの主要な実装の一つです。

IPFSの基本的な仕組み

IPFSは、従来のファイルシステムやWebのHTTPプロトコルに代わる、新しいピアツーピアの分散型ファイルシステムです。その最大の特徴は、「コンテンツ指向アドレス指定(Content-Addressing)」を採用している点にあります。

コンテンツ指向アドレス指定

HTTPでは、データの場所(サーバーのURLなど)を指定してファイルを取得します。これは「場所指向アドレス指定(Location-Addressing)」と呼ばれます。データが移動したりサーバーがダウンしたりすると、URLが変わったりアクセスできなくなったりする可能性があります。

一方、IPFSでは、ファイルの内容そのものから生成されるハッシュ値(コンテンツID:CIDと呼ばれます)によってデータを識別します。データを要求する際は、場所ではなくCIDを指定します。ネットワーク上のいずれかのノードがそのCIDを持つデータを持っていれば、そこからデータが取得できます。これにより、データの場所を意識することなく、ネットワーク全体で効率的にデータを共有・配信できます。データの内容が変わるとCIDも変わるため、データの改ざんを容易に検出できるという特性もあります。

Merkle DAG

IPFSはMerkle Directed Acyclic Graph(Merkle DAG)というデータ構造を利用しています。これは、Gitやブロックチェーンでも使われる構造に似ており、各ブロックがその内容のハッシュを持ち、さらにその内容に含まれる他のブロックへのリンク(ハッシュ)を持つことで、データの整合性を保証し、重複を排除しながら効率的にデータを管理します。これにより、大きなファイルを小さなチャンクに分割して保存・取得したり、ファイルシステムのようなディレクトリ構造を扱ったりすることが可能になります。

Web3開発におけるIPFSの活用事例

IPFSは、Web3アプリケーションの様々な側面で活用されています。いくつかの代表的な事例をご紹介します。

IPFSの技術選定におけるポイント

IPFSをWeb3プロジェクトに導入する際に、技術リーダーやプロジェクトマネージャーが考慮すべき重要なポイントがいくつかあります。

まとめ

IPFSは、コンテンツ指向アドレス指定を採用した分散型ファイルシステムとして、Web3開発において不可欠な技術要素の一つとなっています。NFTアセットの保存からDAppsのフロントエンドホスティング、ユーザー生成コンテンツの管理まで、その活用範囲は多岐にわたります。

プロジェクトへのIPFS導入を検討する際は、単に「分散型だから」というだけでなく、データの永続化戦略、パフォーマンス要件、セキュリティ・プライバシーへの配慮、そしてコストといった具体的な技術選定のポイントを慎重に評価することが求められます。Pinningサービスなどのエコシステムも成熟してきており、これらのサービスを適切に活用することで、IPFSのメリットを享受しつつ、運用や開発の負担を軽減することが可能です。

Web3アプリケーションの信頼性、可用性、検閲耐性を高める上で、IPFSは強力な選択肢となります。プロジェクトの要件を明確にし、本記事で述べたような技術選定のポイントを踏まえて、IPFSの導入を検討いただければ幸いです。