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Web3開発におけるアカウント抽象化ツール：UX向上と採用促進、主要ツール、技術選定のポイント

Tags: アカウント抽象化, ERC-4337, Web3開発, スマートコントラクト, UX

はじめに：Web3のUX課題とアカウント抽象化の重要性

ブロックチェーン技術を基盤としたWeb3アプリケーション（DApps）は、分散性や透明性といった革新的な価値を提供します。しかし、その一方で、従来のWeb2サービスと比較してユーザー体験（UX）において課題を抱えていることが少なくありません。例えば、複雑なウォレット管理（シードフレーズのバックアップ、秘密鍵の紛失リスク）、トランザクションごとのガス代支払い、複数の操作を行う際の煩雑さなどが挙げられます。これらの課題は、一般ユーザーのWeb3への参入障壁となり、普及を妨げる要因の一つとなっています。

このような課題に対し、解決策として注目されているのが「アカウント抽象化（Account Abstraction）」です。アカウント抽象化は、従来のEOA（Externally Owned Account）中心の操作体系から、スマートコントラクトをアカウントとして利用するモデルへと進化させることで、Web2に近い滑らかなユーザー体験を実現しようとする概念です。

本記事では、Web3開発におけるアカウント抽象化の基本概念、ERC-4337の概要、開発を加速するための主要なツールやSDK、そして具体的な活用事例をご紹介します。加えて、プロジェクトでアカウント抽象化ツールを導入する際に考慮すべき技術選定のポイントについても詳しく解説いたします。

アカウント抽象化とは？ EOAとコントラクトアカウントの違い

ブロックチェーン（特にEthereum）におけるアカウントには、主にEOA（Externally Owned Account）とコントラクトアカウントの2種類があります。

アカウント抽象化は、このコントラクトアカウントをユーザーが直接管理・操作できる「スマートアカウント（Smart Account）」として機能させることを目指します。これにより、トランザクションの検証ロジックや実行ロジックをコントラクトで柔軟に定義できるようになります。

例えば、以下のようなことが可能になります。

これらの機能は、従来のEOAモデルでは実現が困難でした。

ERC-4337：アカウント抽象化の標準化提案

アカウント抽象化の概念自体は以前から存在していましたが、ネットワーク層のプロトコル変更が必要であったり、Ethereumの合意形成レイヤーに大きな変更を加えたりする必要がありました。これに対し、Ethereum改善提案（EIP）であるERC-4337は、プロトコルレベルの変更を最小限に抑えつつ、既存のインフラ上でアカウント抽象化を実現するためのフレームワークを提供します。

ERC-4337の主な要素は以下の通りです。

ERC-4337は、既存のEthereumネットワーク上でクライアント層やプロトコル層の変更なしにアカウント抽象化を実現できるため、迅速な普及が期待されています。

Web3開発におけるアカウント抽象化ツール/SDK

ERC-4337に基づいたスマートアカウントを開発・利用するためには、その複雑なプロセス（UserOperationの構築、Bundlerへの送信、Paymaster連携など）を抽象化してくれるツールやSDKが不可欠です。いくつかの主要なツールやサービスが開発者向けに提供されています。

主要なアカウント抽象化ツール/SDK例

これらのツールは、UserOperationの作成、署名、Bundlerへの送信、イベントの監視といった、アカウント抽象化の実装における技術的な複雑さを吸収し、開発者がアプリケーションロジックに集中できるよう支援します。

コード例：SDKを用いたスマートアカウントの操作（概念的な例）

ここでは、一般的なアカウント抽象化SDKを利用する際の概念的なコードフローを示します。具体的なAPIやメソッド名は各SDKによって異なります。

// サンプルコード（特定のSDKに依存しない概念的な表現）

// SDKの初期化
const smartAccountClient = new SomeAA_SDK.Client({
  chain: 'ethereum', // サポートするチェーンを指定
  bundlerUrl: 'https://your-bundler-url.com', // Bundlerのエンドポイント
  paymasterUrl: 'https://your-paymaster-url.com' // Paymasterのエンドポイント (オプション)
});

// 既存のEOA（ガス代支払い用、または初期デプロイ用）
const eoaSigner = new ethers.Wallet(privateKey, provider);

// スマートアカウントの生成または既存アカウントの取得
// SDKによっては、初回操作時に自動的にデプロイされる
const smartAccount = await smartAccountClient.getSmartAccount(eoaSigner);

// トランザクション（UserOperation）の作成
const userOp = await smartAccount.buildUserOperation({
  to: '0xTargetContractAddress', // 操作対象コントラクト
  data: '0x...', // 実行する関数のencodeされたデータ
  value: 0, // 送信するETH量
  // その他のオプション（ガス設定、ノン_スなど）
});

// Paymasterを利用してガス代を肩代わりする場合
if (smartAccountClient.paymaster) {
  // Paymasterからガススポンサーシップデータを取得
  const paymasterAndData = await smartAccountClient.paymaster.getPaymasterAndData(userOp);
  userOp.paymasterAndData = paymasterAndData;
}

// UserOperationへの署名（ここではスマートアカウントの署名スキームを使用）
// 例：Passkey、Multi-sig署名など。SDKが内部で処理。
const signedUserOp = await smartAccount.signUserOperation(userOp);

// Bundler経由でUserOperationを実行
const userOpHash = await smartAccountClient.sendUserOperation(signedUserOp);

console.log('UserOperation送信:', userOpHash);

// UserOperationの結果を待機
const receipt = await smartAccountClient.waitForUserOperationReceipt(userOpHash);

console.log('UserOperation完了:', receipt);

この例は、UserOperationの構築、オプションとしてのPaymaster連携、そしてBundlerを経由した実行という一連の流れを示しています。各SDKはこのプロセスを抽象化し、開発者がより少ないコードでこれらの機能を実装できるようにします。

アカウント抽象化の活用事例

アカウント抽象化は、様々なDAppsやWeb3サービスにおいて、ユーザー体験を劇的に向上させ、新たなビジネスモデルを可能にします。

これらの事例は、アカウント抽象化が単なる技術的な改善に留まらず、Web3サービスの利用促進やマネタイズ方法にも大きな影響を与える可能性を示しています。

技術選定のポイント

プロジェクトでアカウント抽象化ツールやサービスを導入する際には、以下の点を考慮して技術選定を行うことが重要です。

まとめ

アカウント抽象化は、Web3のUXを改善し、より多くの一般ユーザーをブロックチェーンの世界に迎え入れるための重要な技術です。特にERC-4337の登場により、既存のインフラ上でスマートアカウントを活用する道が開かれました。

技術リーダーやプロジェクトマネージャーの皆様にとって、アカウント抽象化ツールやSDKは、開発効率を高めつつ、プロダクトの競争力を向上させるための強力な武器となり得ます。ガスレス取引によるオンボーディングの円滑化、ソーシャルリカバリーによる安心感の提供、バッチ処理による操作性の向上など、そのメリットは多岐にわたります。

適切なツールを選定し、アカウント抽象化を戦略的に導入することで、ユーザーにとって使いやすく、魅力的なWeb3サービスを構築することが可能になります。今後のWeb3のマスアダプション（大規模な採用）において、アカウント抽象化はますますその重要性を増していくでしょう。自社プロダクトへの導入を検討する際は、本記事でご紹介した選定ポイントを参考にしていただければ幸いです。