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Web3開発における監視・ログ収集の重要性、代表的なツールと活用事例、技術選定のポイント

Tags: 監視, ログ収集, 運用, 監視ツール, Web3インフラ, Tenderly

Web3(分散型ウェブ)におけるアプリケーション(DApps)やプロトコルの開発は、従来のWeb開発とは異なる特有の複雑さを伴います。特に、システムを安定的に運用し、ユーザーに信頼性の高いサービスを提供するためには、適切な監視(モニタリング)とログ収集の仕組みが不可欠です。本記事では、Web3開発における監視・ログ収集の重要性、その対象となる要素、代表的なツールやアプローチ、そして技術選定における考慮事項について詳しく解説いたします。

なぜWeb3開発に監視・ログ収集が不可欠なのか

従来の集中型システムと比較して、Web3システムは複数の分散したノードやスマートコントラクト、オラクル、ストレージシステムなどが連携して動作します。この分散性ゆえに、問題発生箇所の特定やシステム全体の健全性の把握が難しくなる傾向があります。監視・ログ収集は、以下の目的のために極めて重要です。

スマートコントラクトは一度デプロイされると原則として変更できません。そのため、開発段階での厳格なテストに加え、運用段階での継続的な監視は、予期せぬバグや脆弱性による損害を防ぐ上で決定的な役割を果たします。

Web3における監視・ログ収集の対象

Web3システムで監視・ログ収集の対象となる主な要素は多岐にわたります。プロジェクトの性質や利用するテクノロジーによって異なりますが、一般的には以下のような項目が挙げられます。

これらの要素を横断的に監視し、発生するログやイベントを一元的に収集・分析することで、システムの全体像を把握し、問題に迅速に対応できる体制を構築することが求められます。

代表的なツールとアプローチ

Web3開発における監視・ログ収集を実現するためのツールやアプローチはいくつか存在します。プロジェクトの規模、技術スタック、求める機能レベルに応じて最適なものを選択することが重要です。

RPCプロバイダーの提供する機能

AlchemyやInfuraといった主要なRPCプロバイダーは、ノードの可用性や基本メトリクス、APIリクエスト数などの監視機能やダッシュボードを提供している場合があります。これらは基本的な運用監視には有用ですが、スマートコントラクトの内部挙動の詳細な分析や、カスタムイベントに基づいた高度なアラート設定には限界がある場合があります。

ブロックチェーンエクスプローラーのAPI/Webhook

Etherscanなどのブロックチェーンエクスプローラーは、特定のトランザクション、アドレス、スマートコントラクトイベントなどを監視するためのAPIやWebhookを提供しています。これにより、特定のイベントが発生した際に通知を受け取ったり、オンチェーンデータを自動的に取得したりすることが可能です。比較的手軽に導入できますが、提供される情報の粒度やカスタマイズ性に制約がある場合があります。

汎用監視ツールとの連携

PrometheusやGrafana、Datadogなどの汎用的な監視・データ可視化ツールをWeb3システムと連携させるアプローチです。ノードソフトウェアによっては、Prometheus形式のメトリクスを出力する機能を持ちます。また、独自のスクリプトやExporterを作成することで、ブロックチェーンのデータやスマートコントラクトの状態をこれらのツールに取り込み、他のシステム(データベース、アプリケーションサーバーなど)と統合した監視ダッシュボードを構築できます。既存の監視基盤を活用できる点がメリットですが、Web3特有のデータを扱うための設定や開発が必要になります。

専門のWeb3監視・開発プラットフォーム(例: Tenderly)

Tenderlyのようなプラットフォームは、Web3開発と運用のライフサイクル全体をサポートすることに特化しています。単なる監視に留まらず、以下のような多様な機能を提供します。

Tenderlyのようなツールは、特にスマートコントラクトの複雑なインタラクションや内部エラーのデバッグ、きめ細やかな監視・アラート設定において強力な力を発揮します。開発チームと運用チームが共通のツールで情報を共有しやすい点もメリットと言えます。

スマートコントラクトイベントのコードレベル購読

DAppsのバックエンドやサービス内で、Ethers.jsやWeb3.jsといったライブラリを使用して、ブロックチェーンから直接スマートコントラクトのイベントを購読するアプローチです。特定のイベント発生をトリガーとして、データベースへの書き込みや通知処理などを実装できます。アプリケーション固有のロジックに基づいたイベント処理には適していますが、ノードの接続管理やイベントの欠落・重複対策などを考慮する必要があります。

技術選定のポイント

Web3開発における監視・ログ収集ツールやアプローチを選定する際には、以下の点を考慮することが重要です。

活用事例

まとめ

Web3開発における監視・ログ収集は、システムの信頼性、可用性、セキュリティ、パフォーマンスを確保するために不可欠な要素です。分散システム特有の複雑さに対処するためには、ブロックチェーンノード、スマートコントラクト、トランザクションなど、多様な要素を網羅的に監視し、発生する情報を効率的に収集・分析する仕組みが必要となります。

RPCプロバイダーの基本機能、ブロックチェーンエクスプローラーのAPI、汎用監視ツールとの連携、そしてTenderlyのような専門プラットフォームなど、様々なツールやアプローチが存在します。プロジェクトの要件や予算、チームのスキルセットなどを総合的に考慮し、最適な監視・ログ収集戦略を設計・実装することが、Web3プロジェクトを成功に導く鍵となるでしょう。運用フェーズを見据えた開発初期段階からの検討を強く推奨いたします。